電気自動車(EV)が普及しない理由とは?日本が抱える課題を徹底解説
2022.08.31
電力で走行する「電気自動車(Electric Vehicle=EV)」は、走行時に排気ガスが出ないため、深刻化する地球温暖化への対策として注目されています。
しかし、日本国内では、電気自動車が普及しているとはいえない状況です。「電気自動車関連のニュースは目にするが、走行する電気自動車を見かける機会は少ない」と感じる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、電気自動車の概要とともに、電気自動車が普及しない理由を解説します。電気自動車への乗り換えに興味がある方や、電気自動車の現状について知りたい方などは、ぜひ参考にしてください。
電気自動車とは?
電気自動車とは、バッテリーに蓄えた電力を使い、モーターを回すことで走行する車です。走行時に排気ガスが一切出ないことから、「ゼロエミッション・ヴィークル(排気ガスゼロの乗り物)」とも呼ばれます。日本では2009年に、世界初の量産型電気自動車である三菱自動車「i-MiEV(アイミーブ)」が登場しました。
ガソリン車の場合、ガソリンを燃料にエンジン爆発を起こして走行するため、以下が装備されています。
- ガソリンを入れる給油口
- ガソリンを蓄える燃料タンク
- ガソリンを爆発させるエンジン
- 排気ガスを出すマフラー
一方、電気自動車には、上記のような装置がありません。
その代わり、以下が装備されています。
- 充電に必要な装置
- 電気を蓄える駆動用バッテリー
- 駆動力を生み出すモーター
- モーターの出力をコントロールするコントローラー
電気自動車にはエンジンがないため、一般的なガソリン車よりも走行音が静かで、振動も少ないのが特徴です。また、モーターは加速性能が高いため、スムーズに発進・加速できます。
電気自動車が求められている背景
異常気象の頻発や海面水位の上昇など、さまざまな影響が懸念される地球温暖化は、年々深刻化しています。地球温暖化のおもな原因と考えられるのが、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)です。特に、化石燃料由来の二酸化炭素の影響が大きいと考えられるでしょう。
そのため、日本を含めた世界各国では、CO2削減に向けた取り組みに力を入れています。車両の燃料消費量を規制する「燃費規制」も、その取り組みの一つです。これまで、自動車業界では、ハイブリッド・ダウンサイジングターボ・クリーンディーゼル・プラグインハイブリッドなどの省燃費技術が生まれてきました。
また、走行時に排気ガスが出ない電気自動車への注目も集まり、「ガソリン車の販売を禁止し、電気自動車の販売に限定する」などの方針を掲げる動きが広がっています。
このような動向から、電気自動車の普及率は世界的に高まっていくと予想されるでしょう。
電気自動車が普及しないおもな6つの理由
世界的に地球温暖化が問題視されるなか、電気自動車の普及は自然な流れといえます。しかし、日本国内を見ると、電気自動車が普及しているとは感じにくい状況です。
ここでは、電気自動車が普及しないおもな理由を解説します。
車両価格が高い
電気自動車を購入しようと思っても、一般的なガソリン車と比べると車両価格が高く、消費者が手を出しにくい実情があります。
例えば、日産「リーフ」(40kWhモデル)は、電気自動車のなかでは安価なモデルであるものの、その価格は370~420万円程度です。同じサイズのガソリン車・ハイブリッド車である、トヨタ「カローラスポーツ」の価格が215~285万円程度なのと比べると、高価といえるでしょう。
国や自治体の補助金を活用すれば、電気自動車の購入負担額を抑えられますが、電気自動車が普及するためには、補助金がなくても購入しやすい価格になることが望まれます。
充電インフラの整備が進んでいない
ガソリン車では給油が必要であるように、電気自動車も充電が必要です。電気自動車の充電方法には、普通充電と急速充電の2種類があります。高速道路のサービスエリアや道の駅、ショッピングモール、コンビニエンスストアなどには、短時間で充電できる「急速充電器」が設置されているでしょう。
しかし、設置費用や維持費用が高いなどの課題があり、エリアによって充電インフラの整備状況に差が出ています。また、休日や特定の場所では「充電待ち」が見られるため、誰もが使いたいときに使いたい場所で充電できるよう、充電インフラの整備を進めていかなければなりません。
航続距離が短い
電気自動車は、一般的なガソリン車と比べて航続距離(1回の燃料補給で走行できる距離)が短いため、使い勝手が良くないことがあります。通勤や買い物などの日常利用では問題ないものの、充電インフラの整備が進んでいないことを考えると、長距離のドライブなどでは不安を感じるかもしれません。
加えて、航続距離160km分の充電をするのに、急速充電でも15~30分程度要することから、電気自動車で遠出する際はあらかじめ充電計画を立てておく必要があります。
実はゼロエミッションではない
前述したとおり、電気自動車は「ゼロエミッション・ヴィークル(排気ガスゼロの乗り物)」と呼ばれます。しかし、太陽光などの再生可能エネルギーや原子力で発電・充電するケースを除き、実は「ゼロエミッション」ではありません。
たしかに、電気自動車からCO2を含む排気ガスは出ませんが、火力発電を主力とする日本では、電気自動車に必要な電気を作る際、発電所で大量のCO2を排出しています。
現状、日本において電気自動車は一定のCO2削減効果があるものの、CO2排出量が多い石炭発電が主流の国などでは、必ずしもCO2削減につながるとは限らないでしょう。
電力確保が不可欠である
電気自動車が普及するうえで、電気自動車のバッテリーを満たすための電力確保が大きな課題です。
例えば、日産「リーフ」のバッテリーは、40kWhと60kWhの2種類があります。
一般家庭の消費電力量は一日当たり10kWh程度なので、リーフのバッテリーをフル充電するには、一般家庭で消費される電力の4~6日分程度が必要です。
日本の電力需給状況から考えると、電気自動車が数百万台程度増えた場合、電力供給が追い付かなくなるかもしれません。特に、真夏の日中に急速充電を行なうケースなど、ピーク時の電力供給に不安があります。今後は、電力供給側の体制強化が不可欠でしょう。
原発に関する方針が定まっていない
日本では、原子力発電に関する議論が進んでおらず、今後の方針が明確になっていません。
原子力発電は、発電時にCO2を排出しないほか、比較的低コストで電力供給ができるメリットがあります。しかし、大きな事故が起こると、放射性物質による重大な被害を生む可能性があることなどから、否定派も多いのが現状です。
原子力発電に関する方針が定まらなければ、安定的な電力供給が欠かせない電気自動車は普及しにくいでしょう。
まとめ
深刻化する地球温暖化に対し、世界各国がCO2削減に向けた取り組みに力を入れるなか、走行時に排気ガスを出さない電気自動車への注目度が高まっています。
しかし、日本国内では、以下の理由により電気自動車の普及が伸び悩んでいます。
- 車両価格が高い
- 充電インフラの整備が進んでいない
- 航続距離が短い
- 実はゼロエミッションではない
- 電力確保が不可欠である
- 原発に関する方針が定まっていない
今後、電気自動車が普及して暮らしに定着するためには、車両価格の低減や充電インフラの整備、安定的な電力確保など、電気自動車を導入しやすい環境を整える必要があるでしょう。